テストプロセスの能力改善技術 ~その1

 SNS等での湯本剛さんの発言から,そろそろTPI NEXT の日本語訳版が出版されることはご存知かと思います。テスト技術系書籍としては久しぶりの新刊ということもあり話題になっており,本Blogでも取り上げてみたいと思います。初回の本記事ではテストプロセスの能力改善技術について,どういったものがあるか簡単に紹介したいと思います。


 そもそも「テストのプロセス改善のための技術なんてあるの?」という声が上がりそうですけれど,実はあります。

SQuBOKテストプロセス改善.png SQuBOK V2 では2.3.1.4 T:TPI(テストプロセス改善),2.3.1.5 T:TMMi(テスト成熟度モデル統合)が取り上げられています。ISTQB-AL テストマネージャシラバスではそれらに加えて,CTP(クリティカルテストプロセス)やSTEP(体系的テストと評価プロセス)が紹介されています。また,ISO/IEC/IEEE 33036(テストプロセスのアセスメントモデル)も策定中です。現場寄りの方になると読み飛ばしてしまいがちなところに書かれているため,認識していなかった人もそれなりに多いのではないかと思います。


 挙げた5つの中で,比較的取組みやすいのはTPIとTMMiの二つと思います。

 TPIはTmapというテストプロセスの方法論をベースとした,テストプロセスを改善するための技法です。テストプロセスを20のキーエリアに分け,それぞれに対してプロセスの成熟度を判定する方法をとっています。

 TMMiはテストのプロセスを段階的に改善するための技法でCMMiのテスト技術分野を補完するもので,CMMiと同じく5段階の水準とそのゴールで構成されています。アセスメントにより成熟度を判定します。

 前者は日本語訳された書籍が存在(NEXTは出版予定)しますので,とっかかりやすいですね。もしコンサルが必要ならば翻訳者に発注してしまえばいいので,スタートしやすいです。後者はCMMiを補完するものですから,すでにCMMiを導入しているなどのノウハウがあれば取り組みやすいです。CMMiの導入ガイド的な書籍を参考にすることもできます。CMMiのコンサルタントも仕組みの導入の構築に限れば利用できるかもしれません。

 ただ,国内ではこの二つの技術の導入事例を見かけることがありません。風の噂によると大手企業ではいくつかの導入実績があるらしいですが,残念ながら発表された事例を見つけることができませんでした。調査が足りないのかもしれませんが,JaSSTやSQiPシンポジウムでも見かけません(JaSSTでは過去の研究発表資料が公開されてはいます)。この状況から判断するに,国内では今回挙げたようなテストプロセスの改善技術はほとんど利用されていないというように思えます。

 そう思えるのではありますが,そのようなことが全く行われていないかというとそうではないとも思えます。日本の現場では俗にいう改善活動が根付いているわけですが,その中でテストのプロセス改善が実施されている可能性が高いです。そしてそれらは現状分析から改善効果測定までがなされているので,実質的にテストプロセス改善を行っているし,アセスメントもしているということになります。QA部門がけん引する品質改善活動の中に入っていることが多そうですね。。しかしながら,それは組織の独自の尺度に基づいているため,他組織や他社と比較してどうかということを判断するのは苦しいでしょう。この激動の時代に,競合他社に技術力で勝っていくぞという意思がある組織は業界標準的な尺度で自組織を評価する活動が欠かせません。そこにTPIやTMMiを利用する価値があります。


 さて,ではTPIとTMMiはどちらを採用すればいいでしょうか。筆者としては以下のように考えていますし,プロセス改善の支援要求がある場合はまずはそのように説明することにしています。
 
 TPI:部門や現場,プロジェクトレベルで自律的に継続的改善する,ボトムアップアプローチに向いている。

 TMMi:全組織的に成熟度を判定し,改善していきたいプロセスエリアごとに施策を展開していくような,トップダウンアプローチに向いている。また,CMMiが導入済みであるならば,その仕掛けやノウハウが利用できる。

 どちらを選択するかは,技術導入しようとする人の立場が上位組織側なのか,現場側なのかによるところが大きいです。見たい方向を勘案して採用するのが良いでしょう(実際には他の要員も合わせて検討が必要ですが)。もしくは両方採用してしまうというのもありだとは思います。現場レベルでは自律的な改善活動を行い,定期的に全社的な状況を把握する,というような使い方ができます。

 これまでいくつかの相談を受けてきた経験からいうと,採用が決まったとして,最初はとても苦労をします。テストプロセス改善に”特化して”取り組むと言うことになると,これまでテストという技術範囲でプロセス改善を考えてきたことがないために,TPIのキーエリアやTMMiのプロセスエリアやスペシフィックゴールを読み解けないということが起こります。このため,最初動かす前に,できるだけテスト技術分野の知識がある人に協力を求めると良いでしょう。具体的にはISTQB-AL程度の知識は最低限持っている方が良いと思います。そうなってくると,前述のとおりコンサルタントの力を借りるのが良いと思います。ただし,現在,国内にテストプロセス改善専門のコンサルタントはいないのではとも思いますので,テストに通じたコンサルタントとの共同技術開発的なアプローチで仕組みづくりに取り組むといいのかもしれません。

 さて,いずれの場合にしても国内にはほとんど情報がありません。また,あったとしても検索して見つけられるものはかなり古い情報になります。TPIはTPI NEXT の日本語版が出ますし,TMMiもrelease1にバージョンが上がっています。昔の情報とはもはやギャップが生まれています。
 
 このTPIおよびTPI NEXT,TMMiの中身について,今後の記事で簡単に紹介したいと思います。


 

 

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